◆VR酔いを防ぐにはどうすればいい!?~エンジニア視点で考える原因と対策~
皆さん、こんにちは。
皆さんは、VR体験をしていて、「頭がクラクラした、酔ってしまった」という経験はありませんか?また、VR体験をしたことがない方でも、「酔いそうで怖い…」という印象をお持ちの方も多いかもしれません。
今日は、そんな方々のために「VR酔いの原因とその対策」についてご紹介したいと思います!VR酔いには様々な原因があり、対策を取ることである程度軽減することが出来ます。本記事では、日々クリーク・アンド・リバー社でVR制作を行っているエンジニアの視点で解説して参りますので、少しでも参考にしていただければ幸いです。
さて、2018年末に実施されたVRに関するアンケート調査(*1)によると、VR体験者のうち85%が体験に満足していると答えたそうです。満足した理由として「臨場感」や「リアル」というキーワードが挙がる反面、不満だったと答えた回答者の中で最も多かった意見が「酔った」というものでした。このアンケート結果のように、現在のVR技術が抱える課題の一つとして「酔い」というものが挙げられます。
まずFOV(Field of View)とは、いわゆる視野角です。人間の目は220°の視野角を持つのに対して、VRのヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)の視野角は110°が一般的です。
このHMDの視野角が狭ければ狭いほど、酔いを誘発しやすくなります。なぜなら、HMDの視野角ではカバー出来ない部分を見ようとするとき、人間はHMDごと頭を回さなければならないからです。何も被っていない状態なら、頭を固定したまま目だけを動かすことが出来ますが、視野角に限りのあるVRでは、頭ごと画面全体を動かす必要があります。画面を動かせば映像更新が頻繁に起こり、その急激な変化に違和感を覚え酔ってしまいます。
今回はVR酔いを予防、軽減させるための知識や方法についていくつかご紹介しました。
酔い改善の方法は上記以外にも様々な方法で工夫されていますが、その多くには一つ共通点があります。それは「酔いは脳の働きに関係する」ということ。目が実際見た物や体が実際体験しているものと、脳が認識するものの間に生じる差異が鍵となります。
以上のように、VR酔いの根本的な改善にはまだまだ時間がかかりそうです。しかしクリーク・アンド・リバー社では、上記のように最大限酔いを軽減し、質の高いVR体験が可能なコンテンツの制作に日々取り組んでおります。「VRを導入してみたいけれど、酔いのリスクが心配」「VR酔いを抑えて、誰でも楽しめるVRコンテンツを制作して欲しい」といったご希望をお持ちの皆様、ぜひお気軽にお声がけください!
参考文献:*1:https://www.moguravr.com/macromill-research-2019-02/{{cta('ce7ed2d4-e1aa-43cf-a827-0f60a1647a6c','justifycenter')}}
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■VR酔いの主な原因は「脳と体の同期ズレ」
酔いの原因は様々ありますが、最も大きい原因は「脳と体の同期ズレ」です。これはVR酔いに限らず、車や船といった乗り物酔いや、映像で楽しむゲームやアトラクションなどの3D酔いも同じ原因で起こります。この同期ズレが起こる理由は、脳が認識した動きと実際の体の動きが異なる、というものです。詳しく説明すると、目に入った「視覚情報」と、耳の奥に位置した三半規管が計る「平衡感覚」の不一致によって、脳が混乱し気分が悪くなるわけです。 では、乗り物酔いに例えてみましょう。車が発進したら周りの景色が素早く変わっていきますが、我々は座席に座ったままです。風景が変わることで脳は「移動している」と認識する反面、体は「椅子に座っているだけ」だと勘違いします。こういった差異によって車酔いを感じるわけですが、同期ズレによるVR酔いも仕組みは全く同じです。 同期ズレを解消するには「視覚情報」と「体の動き」を同期させる必要があり、実際にそのようなデバイスも登場しています。しかし、まだ酔いを完全に解消するには至っていないようです。同期ズレの原因を根本的に解消するのは難しいのが現状ですが、VRアプリを開発するエンジニアたちは、酔いの予防と改善について日々研究を重ねています。■VR酔いを軽減するコンテンツ制作方法とは?
では、そもそもユーザーを酔わせないためにどのような基準とルールを設けて開発を進めるべきなのでしょうか。ここではVRのハードウェア面とソフトウェア面の両方を交えて、いくつか説明していきます。▼VR酔い対策①:人間の目に近い視覚効果を目指す
映像とその性能に関する概念には、FOV・fps・リフレッシュレートというものがあります。<用語解説>
FOV ➡ 視野角
fps ➡ ソフトウェア側が制御する映像更新の頻度
リフレッシュレート ➡ ハードウェア側が制御する頻度
<図1:HMD装着時の頭の動き>
そして、この映像更新に深く関わるのが、fpsとリフレッシュレートという数値です。fps(frames per second)は、フレームレートと呼ばれ、ソフトウェア側が制御する映像更新の頻度を意味します。例えるならパラパラ漫画のコマ数のようなものです。リフレッシュレートも映像更新の頻度という定義は一緒ですが、今度はソフトウェアではなくハードウェア側が制御する頻度の数値です。要するに、fpsはアプリ側(=ソフト側)の制御を、リフレッシュレートはHMD(=ハード)のディスプレイ側の制御を意味するということです。fpsとリフレッシュレートが低いと画面の更新が遅れる、いわゆる遅延を発生させます。そのため数値が大きいほど画面がより滑らかに更新されていきますが、反対に数値が低いと映像に遅延が生じ、カクカクになるため酔いやすくなるわけです。 2019年春に、人間の視野をほとんどカバーする210°対応や220°対応のHMDが発売されました。 合わせて以前より高いリフレッシュレート性能を持つHMDのディスプレイも多くなっています。そしてディスプレイの性能が高くなればアプリ側で出した高いfpsを表示出来るようにもなります。今後のVR市場には高画質高感度のHMDが多くなる傾向にあるので、これからのVR体験ではより酔いにくくなることは間違いないでしょう。 ▼VR酔い対策②:次の動きを「予測」させる アプリ内での視点の切り替えや移動などの急激な画面の変化は、酔いを感じやすくする原因の一つになります。反対に、画面の変化をユーザーが予測できるようにすれば、酔いを軽減させることができます。その方法として、「事前に知らせる」、「フェードを加える」といったものがあります。 これらはとても単純なもので、例えば画面が切り替わる少し前に“画面が替わります“といった表示を出すことで、脳はこの後起こる変化に対して準備を整えることができます。また、移動が始まった瞬間にフェードアウト、フェードインを挟むことで瞬きのような効果となり、変わった風景に徐々に慣れさせることができます。要するに、急な変化で脳に瞬間的な刺激を与えることが酔いにつながるため、脳が順応できる余裕を持たせるといった方法が有効だということになります。▼VR酔い対策③:テクスチャの配置は目の動きに注目する
最後は、エンジニアとして実際に体験したことをご紹介します。とあるコンテンツの開発中に、UIの配置作業の途中に目がひどく疲れ、そのまま作業を続けていて酔ってしまったことがあります。原因は複数のUIテクスチャの奥行を違う数値で設定していて、それらを交互に眺めることで焦点を合わせる目の筋肉が疲れてしまったことです。さらに大きな理由は実際の見た目では奥行の差が分かりにくく、同じ並びのように見えてしまったことです。 実際の例を挙げて説明しましょう。①の画像はHMDのディスプレイに映ったものです。二つのボタンが同じ大きさ、同じ奥行に配置されているように見えます。しかし②の画像の様に、エディター上では二つのボタンの実際の配置にはかなりの差があることが分かります。こういった場合、ボタン1を見た状態からボタン2に目を移すと、目が焦点を合わせようとして急に目の筋肉を動かします。その反面、脳は二つのボタンを同じ配置の物であると認識していたため、ボタン2を観た途端混乱してしまいます。脳の想像とは違う配置により、意図しない焦点の調整を余儀なくされたわけです。<図2:HMD上で見えているボタン>
<図3:エディター上で見えているボタン>
人間の目は物に反射した光を受け入れ、体とその物との間の距離を把握します。そしてその距離によって両目で焦点を定めるわけですが、焦点を変えるという作業を短時間で複数回行ってしまうと目にかなりの負担がかかってしまいます。加えて、見た目から判断した脳の決めつけによって、実際の対象がその決めつけと違う挙動をした時、脳が混乱してしまい酔いが生じます。この現象を控えるには、脳を騙さないように見た目と差異がない位置にテクスチャを配置する必要があり、目の動きについても十二分に考慮する必要があります。■まとめ
<まとめ>
✔VR酔いは、「脳と体の同期ズレ」によって起こる
✔VR酔いを軽減するコンテンツを作るには…
①FOV/fps/リフレッシュレートに注意して、人間の目に近い視覚効果を目指す
②テロップやフェードで、次の動きを予測させる
③脳を混乱させないテクスチャの配置を心掛ける