まずFOV(Field of View)とは、いわゆる視野角です。人間の目は220°の視野角を持つのに対して、VRのヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)の視野角は110°が一般的です。
このHMDの視野角が狭ければ狭いほど、酔いを誘発しやすくなります。なぜなら、HMDの視野角ではカバー出来ない部分を見ようとするとき、人間はHMDごと頭を回さなければならないからです。何も被っていない状態なら、頭を固定したまま目だけを動かすことが出来ますが、視野角に限りのあるVRでは、頭ごと画面全体を動かす必要があります。画面を動かせば映像更新が頻繁に起こり、その急激な変化に違和感を覚え酔ってしまいます。
<図1:HMD装着時の頭の動き>
そして、この映像更新に深く関わるのが、fpsとリフレッシュレートという数値です。fps(frames per second)は、フレームレートと呼ばれ、ソフトウェア側が制御する映像更新の頻度を意味します。例えるならパラパラ漫画のコマ数のようなものです。リフレッシュレートも映像更新の頻度という定義は一緒ですが、今度はソフトウェアではなくハードウェア側が制御する頻度の数値です。要するに、fpsはアプリ側(=ソフト側)の制御を、リフレッシュレートはHMD(=ハード)のディスプレイ側の制御を意味するということです。fpsとリフレッシュレートが低いと画面の更新が遅れる、いわゆる遅延を発生させます。そのため数値が大きいほど画面がより滑らかに更新されていきますが、反対に数値が低いと映像に遅延が生じ、カクカクになるため酔いやすくなるわけです。
2019年春に、人間の視野をほとんどカバーする210°対応や220°対応のHMDが発売されました。 合わせて以前より高いリフレッシュレート性能を持つHMDのディスプレイも多くなっています。そしてディスプレイの性能が高くなればアプリ側で出した高いfpsを表示出来るようにもなります。今後のVR市場には高画質高感度のHMDが多くなる傾向にあるので、これからのVR体験ではより酔いにくくなることは間違いないでしょう。
▼VR酔い対策②:次の動きを「予測」させる
アプリ内での視点の切り替えや移動などの急激な画面の変化は、酔いを感じやすくする原因の一つになります。反対に、画面の変化をユーザーが予測できるようにすれば、酔いを軽減させることができます。その方法として、「事前に知らせる」、「フェードを加える」といったものがあります。
これらはとても単純なもので、例えば画面が切り替わる少し前に“画面が替わります“といった表示を出すことで、脳はこの後起こる変化に対して準備を整えることができます。また、移動が始まった瞬間にフェードアウト、フェードインを挟むことで瞬きのような効果となり、変わった風景に徐々に慣れさせることができます。要するに、急な変化で脳に瞬間的な刺激を与えることが酔いにつながるため、脳が順応できる余裕を持たせるといった方法が有効だということになります。